建築写真を安定して撮るための三脚と雲台の正しい選び方

建築写真撮影で三脚が欠かせない理由

建築写真では、カメラのわずかな傾きやブレが写真の質に大きな影響を与えます。柱や窓枠など直線の多い建築物は、水平や垂直が少し崩れるだけで歪んだ印象になり、建物そのものの魅力を損なってしまいます。
三脚を使えばカメラをしっかりと固定でき、スローシャッターでもブレずに撮影が可能になります。また、同じ構図で露出やアングルを変えて複数枚撮る場合でも位置がずれないためバリエーションが作りやすくなります。さらに、撮影者がカメラから一歩離れて構図をじっくり確認できるので、より安定感のある写真が撮れるメリットもあります。

雲台の種類と特徴(3Way雲台・自由雲台・ギア雲台)

三脚に加えて必要になるのが「雲台」です。雲台にはいくつか種類があり、それぞれに特徴があります。

3Way雲台

おそらく最も目にすることが多い雲台ではないでしょうか。上下・左右・前後の3方向をそれぞれ独立して動かせるため正確な構図作りが可能です。建築写真にも適していますが、水平軸と垂直軸のパン棒を緩める→固定という作業工程が多くなり、構図の調整に時間がかかるのが難点です。

HUSKY 3Dヘッド


https://studiojin.co.jp/shop/products/list?category_id=16

自由雲台

ボールジョイントのような仕組みで、一度緩めれば、その名の通り自由に上下左右に素早く動かせます。軽量でスピード感を求められる撮影に向きますが、建築写真に求められる精度の細かな角度合わせには不向きです。

Leofoto HB-70 自由雲台


https://widetrade.jp/leofoto/hb-70/

ギア雲台

ギア(歯車)を使って少しずつ角度を変えられる構造で、3軸(もしくは2軸)をダイヤルを回してギアの噛み合わせによってミリ単位で微調整することができます。緩める動作と締める動作が不要で、固定された状態のまま前後左右に構図を微調整できることが建築写真撮影において大きなメリットとなります。構図を大幅に変更したい場合などは一気に大きく動かして調整すことも可能です。建築写真のほか、商品撮影(いわゆる物撮り)をする際にも便利です。

Leofoto G4 Pro


https://widetrade.jp/leofoto/g4-pro-leofoto/

マンフロット ギア付きプロ雲台


https://www.manfrotto.com/jp-ja/405-geared-tripod-head-strong-and-lightweight-aluminium-405/

Benro 3ウェイギアヘッド


https://benro.jp/products/gd3wh

以前はギア雲台といえばマンフロット製でしたが、現在は様々なメーカーからリリースされています。いずれも基本的にダイヤルを回すことでパン(左右方向)方向、チルト(上下方向)、ロール(光軸回りの回転)を微調整することが可能です。
最初はどのダイヤルがどのような動作をするのか戸惑うかもしれませんが、使っていくとすぐに慣れると思います。メーカーやモデルによってアサインされるダイヤルが異なることがあるので、可能であれば事前に家電量販店等で実際に触ってみて、ご自身が直感的に操作しやすいモデルを選択することをおすすめします。

ギア雲台が建築写真に向いている理由

建築写真では直線を正確に写すことが大前提です。水平や垂直が崩れると、見る人に違和感を与えてしまいます。ギア雲台はダイヤルを回すだけで角度を少しずつ変えられるため、3Way雲台や自由雲台よりも素早く正確に構図を決めることができます。
また、ギアで固定されてるので、一度構図を決めれば安定感が高く、建築写真で多用するスローシャッターや夕景撮影でもブレを防ぐことができます。プロの建築写真家がギア雲台を選ぶ大きな理由は、これら「スピード」「精度」「安定性」にあります。

建築撮影で重視すべき三脚と雲台の選択基準

三脚の安定性と素材

まず重視したいのは三脚の安定性です。脚の太さや剛性はブレを防ぐために欠かせません。素材によっても特徴が異なります。

  • 素材の違い(アルミ / カーボン)
    アルミ製は価格が手頃で堅牢性も高いのが特徴です。ただし重量があるため、持ち運びでは負担になることがあります。カーボン製は軽量で持ち運びやすく振動吸収性にも優れています。その分価格は高めですが、移動の多い撮影や長時間使用に適しています。
  • パイプ径
    三脚の安定性は脚の太さ、つまりパイプ径によっても大きく変わります。パイプ径が大きいほど剛性が高まり、重いカメラや長いレンズでもブレにくくなります。逆に細い径のものは軽量ですが、強風や振動に弱くなります。建築撮影では一番太い脚の径が25mm〜28mm前後以上のモデルを選ぶと安心感があります。
  • 高さ
    特に外観撮影時はアイレベル(目線の高さ)を高くして撮影することがあります。無理にセンターポールを伸ばすと安定性が落ちるので、脚だけで十分な高さを確保できるものを選ぶのが理想です。脚を全て伸ばし、センターポールは伸ばさない状態で1,600mm以上あると安心です。また、脚に目盛りがプリントされているモデルは脚の高さを揃えたり調整する際に便利です。私はベルボン社の三脚を使用しています。

ベルボン 大型カーボン三脚 3段 プロフェッショナル・ジオ N830 「脚スケール」

https://www.velbon.com/products/detail/1101200525-00-00-00

雲台のペイロード(耐荷重)

雲台を選ぶ際に必ず確認すべきなのがペイロード、つまり耐荷重です。カメラとレンズを合わせた重量よりも余裕のある数値を選ぶ必要があります。例えば、カメラとレンズの合計が2.5kgなら、耐荷重5kg以上の雲台が安心です。特に建築写真では、広角ズームやシフトレンズなど重量があるレンズを使うことが多いため、ペイロードに余裕を持たせることが仕上がりの精度につながります。

まとめ

建築写真において三脚と雲台は写真の精度を支える基盤となるものです。三脚はアルミかカーボンかによって携帯性や安定性が変わり、雲台は種類ごとの特徴を理解する必要があります。さらに、使用するカメラとレンズの重さに十分耐えられる雲台を選ぶことは撮影中の安心感と仕上がりの精度を大きく左右します。

自分の撮影スタイル、機材の重量、移動の頻度などを踏まえて三脚と雲台を選べば、建築の美しさを正確に表現できる写真が撮れるでしょう。

投稿者プロフィール

迎崇
迎崇photographer
1975年 石川県羽咋市生まれ、金沢市在住。
小学生の頃、祖父の影響で写真を撮りはじめる。大学卒業後、IT系企業にて顧客を担当マネージャーとして尽力していたが、写真への思いを捨てきれず2017年から写真家としての活動を開始。日常の中にある一瞬を心象的に表現する創作活動を進めている。商業写真の分野では住宅や商業施設などの建築写真撮影を中心に活動しており、撮影実績は1,000棟以上。雑誌、業界紙での掲載多数。
撮影ツアーの企画開催、ワークショップ講師としても活動中。