経験豊富な建築写真家が教える失敗しない現場でのマナー術と実例
現場でありがちな失敗とその対処法
現場を汚したり傷つけるリスクと防止策
撮影現場において最も重要な配慮は「現場を汚さず傷つけないこと」です。完成したばかりの建物は引き渡し直前や竣工したばかりのケースが多く、傷や汚れに非常に敏感な時期です。例えば床に三脚の脚で泥がついたり、壁にカメラバッグをこすったりするだけで補修が必要になることもあります。ほんの小さな汚れが「欠陥」と誤解されることさえあります。
また、建築写真の依頼主は設計者・施工会社・施主などです。撮影する建物は彼らの「作品」であり「商品」でもあります。そこを汚すことは、まるで作品に傷をつけるような行為。撮影者としての信頼を一瞬で失ってしまいます。
建築写真家に求められるのは、技術と同じくらいの誠実さとマナー。「現場を汚さない」という基本が守れないと技術がどれだけ優れていてもプロとしては見なされません。
ということで、今回は私が撮影現場で注意していることをお伝えしていきたいと思います。
まず最初に靴が汚れていないかを確認します。特に外構工事前の物件では敷地に入った段階で土や泥が付着することがあり、そのまま玄関に入ってしまうと足跡で汚してしまいます。養生シートが敷かれている場合は汚すリスクは低くなりますが、場合によっては靴は玄関前で脱ぐこともあります。
次に機材をどこに置くか。置いた際に傷や汚れが付かないように細心の注意を払います。カメラバッグは置いた場所の床を汚さないよう底面は常に清潔にし、三脚は置いた際に金属部分が床を傷めないよう優しく置きます。三脚の脚の先端(石突)部分のゴムが床や壁に直接接触することで汚れや傷が入ることがあるので、撮影前にチェアソックスを履かせます。私自身も足裏の汗などで床を汚さないようルームシューズを履きます。不意に靴下から糸くずが出て床に残ってしまうことも防ぐことができます。
服装で注意しているのはジーンズを履かないこと。万が一、壁に当たった際に色移りしてしまう恐れがあります。撮影に集中していると、特に背後への意識が疎かになってしまうことがあるので注意が必要です。
- 靴が汚れていないか確認
- カメラバッグや三脚を置く場所が適切か確認
- 三脚の脚を養生する
- 自身の足で床を汚さないようルームシューズを履く
- ジーンズなど色移りする恐れがある衣服は避ける
現場の「整理整頓」が撮影の品質を決める
不要なものが写り込まないよう空間を整える
「現場を汚さず傷つけないこと」が大前提。その次に建築写真撮影において大切なのは、建築そのものの魅力を際立たせること。そのため、余計な物が写り込むと写真の印象が損なわれてしまいます。例えば住宅ではLDKに取扱説明書やリモコン類が無造作に置いてあるケースがあります。この場合はLDKを撮影する際に一旦、他の居室に不要物を移動し、撮影後に元の場所に戻します。念のため移動前にスマホで撮影しておき、戻す際は撮影した写真を見ながら元の場所に忠実に戻すようにすると戻し忘れを防ぐことができるので安心です。
また、補修箇所を示すためにマスキングテープや付箋が貼られている場合がありますが、これを許可なく勝手に剥がすのはNGです。レタッチ時に除去するようにしましょう。
家具や小物の位置を整える
特に住宅の撮影で家具や小物が設置してある場合は、不要物の移動に加えて下記のポイントに注意しています。
- ダイニングテーブルやソファの位置が斜めになっていないか
- テーブルとチェアの位置は適正か
- 小物類の位置が不自然ではないか
- キッチンや洗面の水栓の向きは適正か
- カーテンやロールスクリーンが適正な状態か
細かな写り込みや空間の乱れがあると視線が散る要因となり、建物の完成度や意匠の魅力が伝わりにくくなってしまいます。特に家具類が傾いている状態で撮影してしまうと、構図によっては写真も傾いて見えてしまうので、フローリングの継ぎ目などを参考にしながら位置をチェックしています。撮影時はファインダーで映る範囲をチェック。さらに撮影後も画像をチェックしながら必要に応じて調整します。
まとめ:配慮がプロとして信頼される鍵となる
完成した建物を撮影するということは、設計者や施工者、施主にとって特別な意味を持ちます。その中でカメラマンとして行動する以上、技術だけでなく「配慮と礼儀」も作品の評価に直結するということを強く意識しています。
- 機材・靴などの慎重な取扱い
床や壁に傷をつけたり汚さないよう細心の注意を払う。 - 事前確認と整理整頓
不要物の移動、家具や小物類の位置を調整し、空間を整える。 - 撮影前後のチェックと迅速な対応
撮影前後に画像を確認し、チェックする習慣をつける。
レタッチで対応できる場合もありますが、現場で対応した方が結果的に効率的です。
これらは地道な作業ですが、これらはすべて現場において「信頼される撮影者」であり続けるための基本であり、結果として写真の完成度を高めるための確かな手法だと実感しています。完成した建築の姿を美しく、そして誠実に伝える姿勢。こうした基本的なマナーを大切にしながら写真の品質を高め続けていけるよう心がけています。
投稿者プロフィール

- photographer
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1975年 石川県羽咋市生まれ、金沢市在住。
小学生の頃、祖父の影響で写真を撮りはじめる。大学卒業後、IT系企業にて顧客を担当マネージャーとして尽力していたが、写真への思いを捨てきれず2017年から写真家としての活動を開始。日常の中にある一瞬を心象的に表現する創作活動を進めている。商業写真の分野では住宅や商業施設などの建築写真撮影を中心に活動しており、撮影実績は1,000棟以上。雑誌、業界紙での掲載多数。
撮影ツアーの企画開催、ワークショップ講師としても活動中。
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